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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)3156号 判決 1983年5月16日

控訴人(被告) 有限会社大和製作所

被控訴人(原告) タイヨー産業株式会社 外一名

原審 静岡地方昭和五四年(ワ)第二八二号(昭和五六年一一月一七日判決)

主文

原判決を取り消す。

被控訴人らの請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

第一双方の求めた裁判

一  控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

二  被控訴人らは、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

第二被控訴人ら主張の請求の原因

一  侵害の差止めについて。

(一)  被控訴人岩本康男(以下「被控訴人岩本」という。)は、次の登録意匠(以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。

登録番号    意匠登録第三六〇六三九号

登録出願日   昭和四六年一二月一八日

登録日     昭和四七年一二月二七日

意匠に係る物品 ふとん干器

意匠の構成   別紙(一)記載のとおり。

(二)  控訴人は、別紙(二)物件目録記載のふとん干器(以下「控訴人物件」という。)を製造し、これを販売している。

(三)  控訴人物件の意匠は、次のとおり、本件意匠に類似するものである。

1 本件意匠は、「一本の円棒の両端部を下方に直角に曲げたものを天にもう一本の円棒の両端部の各々が上方を向いてu字形を形成するように曲げたものを地に各々水平に配し、またこれらの両端を支持する円棒(支柱)を左右に垂直に配することにより四本の円管をほぼ方形に組んで構成したフレーム三葉の、各フレーム一方の支柱を平面的に束ねてその上下二か所に二個の固定具を配してこれら三葉のフレームを一体化してなる」意匠である。

2 一方、控訴人物件の意匠は、「本件意匠とほぼ同様の円棒三本(固定する支柱を除く。)をやや蝶羽状を呈する四辺形の三辺を構成するように組んだフレーム部四葉の各端部を、二本の支柱により支持される二個の固定具に接続して、これら四葉のフレームを一体化してなる」意匠である。

3 そこで、本件意匠と控訴人物件の意匠とを比較すると、これらは、

「四辺形に組まれた数葉のフレームの一辺を束ねて、その上下に二個の固定具を配してこれらを一体化した意匠」である点で共通し、

(1) 本件意匠のフレームが三葉であるのに対し控訴人物件のそれが四葉である点

(2) 本件意匠の各フレームが方形を呈しているのに対して控訴人物件のそれがやや蝶羽状を呈している点

(3) 固定具間の支柱の数が本件意匠は三本であるのに対し控訴人物件のそれは二本である点

で相違している。

ところで、本件意匠に係る物品であるところのふとん干器は本件意匠の出願当時他に例をみない新品種の商品であり、その基本的な形状からして極めて独創的なものであつて、本件意匠は、いわゆる原始創作意匠にあたるものであるが、このような場合看者としては当該意匠の基本的な部分に斬新さを見出して注意を惹かれるものであり、したがつてそうした部分が意匠の要部であるというべきところ、本件意匠においては、まさに、

「四辺形に組まれた数葉のフレームの一辺を束ねてその上下に固定具を配して、これら数葉のフレームを一体化している」

点に意匠の要部があることは明瞭である。

これに対して、前記(1) フレームが三葉であるか四葉であるか、(2) フレームが方形を呈しているかやや蝶羽状の四辺形であるか、(3) 固定具間の支柱の数が三本か二本か、といつた点は、いずれも、各々の意匠の前記のごとき共通点を勘案してもなお且つ美観上明らかに別意匠であると認識せしめるほどの差異をもたらすようなものではない。

(四)  したがつて、控訴人が控訴人物件を製造、販売する行為は、被控訴人岩本の本件意匠権を侵害するものであるから、被控訴人岩本は、控訴人に対し、右製造、販売の差止を求める。

二  損害賠償について。

(一)  被控訴人岩本は、本件登録意匠の意匠権者であり、被控訴人タイヨー産業株式会社(以下「被控訴人会社」という。)は、後記のとおり、昭和五一年一一月ごろには被控訴人岩本から本件意匠権について独占的通常実施権の許諾を得て、そのころから本件意匠権の実施品であるふとん干器を製造、販売しているものである。

(二)  控訴人は、昭和五二年一一月二六日から昭和五四年六月二〇日ごろに至るまで、本件意匠権の侵害品である控訴人物件四五五〇台を、その製造、販売が本件意匠権を侵害するものであることを知りながらまたは過失によりこれを知らないで、製造、販売したものであり、その売上げ額は、合計金一四一三万八三五〇円に達している。

(三)  被控訴人岩本は、控訴人の前記侵害行為により、得べかりし本件意匠の実施料を得ることができず、したがつて、実施料相当額の損害をこうむつた。そして、その実施料は控訴人物件の販売価格の五パーーセントをもつて相当とするから、控訴人物件の総売上額の五パーセントにあたる金七〇万六九一七円の損害をこうむつたことになる。

被控訴人会社は、遅くとも昭和五一年一一月ごろには、被控訴人岩本から黙示で独占的通常実施権の許諾を得ていたもので、しかも、その内容は、専ら被控訴人会社にのみ実施させ、権利者たる被控訴人岩本自身が一切実施をしないことは勿論、第三者に対しても実施権を許諾することがありえないという点で、むしろ専用実施権たる実質を持つものであるから、被控訴人会社が控訴人の独占的通常実施権侵害によつてこうむつた損害額については、意匠法第三九条第一項の適用ないし類推適用があるものと解すべきところ、控訴人が控訴人物件を売り上げた総金額は金一四一三万八三五〇円に達し、これによつて得た利益は少くとも右総売上額の一五パーセントを下らないから、結局、控訴人が控訴人物件の製造、販売によつて得た利益は金二一二万〇七五二円であり、被控訴人会社は、右利益額から被控訴人会社が被控訴人岩本に対して支払うべき実施料の額を差し引いた金一四一万三八三五円の損害をこうむつたものである。

(四)  よつて、被控訴人らは、それぞれ、控訴人に対し、被控訴人らのこうむつた前記損害の額に相当する金員及びこれらに対する控訴人の前記侵害行為の後である昭和五四年七月一八日から完済に至るまで民法所定の年五分の率による遅延損害金の支払いを求める。

第三請求の原因に対する控訴人の認否及び主張

一  請求の原因一の(一)及び(二)の事実並びに同二の(一)のうち被控訴人岩本が本件意匠の意匠権者であることは認める。同二の(三)のうち、本件意匠の実施料は販売価格の五パーセントをもつて相当とするかどうかは知らない。その余の事実はすべて否認する。

二  控訴人物件の製造、販売が本件意匠権の侵害となる旨の被控訴人らの主張は理由がない。

(一)  被控訴人らの請求の原因一の(三)における主張は、構造、機能が類似すれば直ちに意匠も類似するというもので、その失当であることは明らかである。

すなわち、意匠の類似判断に際しては、物品全体から受ける印象が重要であり、全体を構成する部品も特定のイメージに従つて統一的にデザインされるべきものであるところ、右主張においては、本件意匠と控訴人物件の意匠とではその統一イメージの点において全く相違していることが不当にも看過されているのである。

また、新規な部分に看者の注意がひかれる旨の説明は一般論としては首肯できるものであるが、四辺形に組まれた数葉のフレームの一辺を束ね、その上下に固定具を配して、これら数葉のフレームを一体化したもの総てが類似範囲にあるとするかのごとき主張は、独断にすぎ、通念上何人をも首肯せしめる論法ではない。この点については、乙第五ないし第七号証等の先行意匠との対比で類似範囲を制限的に解釈するのが、きわめて合理的で適正かつ妥当なのである。

(二)  そもそも、控訴人物件の意匠は、空を舞う蝶或いは花にとまつて羽を動かしながら蜜を吸う蝶の優雅な姿のイメージをもつて作られたものであつて、四葉のフレームと二本の管からなる支柱とが、それぞれ独自の形状をもち、それらの組合せによつてそれが表現されている。しかるに、本件意匠は、方形のフレームを三葉束ねたのみで、全くその種の主張がみられないものである。

(三)  意匠の類似判断は、一般の需要者を基準とし、間接対比してされるべきものとされている。

ところで、一般の需要者といえども、フレームの数が七本も八本もあるのならともかく、三本、四本という数は一目でわかる数であり、また、支柱の数にしても、その数自体の認識はとにかくとして、両側二本のみを残している控訴人物件とフレームの数と同数の支柱がある本件意匠にかかるものとは、全く印象が異なるものであり、その相違は何人でもきわめて容易に判別できるものである。まして、前記のごとく控訴人物件の意匠概念は本件意匠には全く見当らないものであるから、両意匠は非類似であると考えるのが至当であり、それが意匠性の根本概念と法益保護の理念に合致するものである。

(四)  さらに、被控訴人らは、構造、機能が類似している旨の主張以外積極的には意匠上の共通点を主張していない。これは、技術的思想を保護する特許法、実用新案法であれば格別、物品の外観に表わされた美観を保護の対象とする意匠法には馴染まないものといわざるをえない。

第四控訴人の主張に対する被控訴人らの反論

控訴人は、控訴人物件は空を舞う蝶或いは花にとまつて羽を動かしながら蜜を吸う蝶の優雅な姿のイメージをもつて作られたものであつて、その形状にそれが表現されているのに対して、本件意匠にはその種の表現がない旨主張している。

しかしながら、大量生産の工業製品にあつては、その物の機能、使い勝手、使い心地といつたものに関する思想がその意匠=美観の内容をなしている場合がほとんどなのであつて、蝶とか花とか特定の物に擬した装飾的なものが意匠=美観の内容をなすことはむしろ稀なのである。

本件意匠の出願当時、これは商品自体他に類を見ない新種商品だつたのであるから、その意匠の内容もまずもつてその基本的形状がもたらすところの美観について検討されなければならない。

してみれば、本件意匠すなわち方形に組まれた数葉のフレームの一方を束ねて展開自在のふとん干しとしたという意匠から受けるイメージは、堅牢、安全、コンパクト、軽量、簡素、合理的といつた機能美にあり、これがすなわち本件意匠の美観の内容ということができる。

これに対して、控訴人は前記のごとく、控訴人製品の意匠は蝶の印象が強い旨主張するけれども、それは本件意匠の各葉のフレームの形状をやや肩上りにしただけにすぎず、これだけではこれを見る者をして当然に「蝶」を想起させるものとは到底いえない。

むしろ、控訴人物件の意匠は本件意匠の前記機能美を依然そつくりそのまま備えているのであつて、看者としても、こうした機能美にこそ控訴人製品について美観を惹起されるのである。

第五証拠関係<省略>

理由

一  被控訴人岩本が本件意匠の意匠権者であること及び控訴人が控訴人物件を製造、販売していることは、当事者間に争いがない。

二  そこで、控訴人物件の意匠が本件意匠と類似するかどうかについて検討する。

(一)  本件意匠の構成を示すものであることについて当事者間に争いのない別紙(一)の記載によれば、本件意匠は、「一本の円棒の両端部を角部を小円弧状にして下方に直角に曲げたものを上部に、他の一本の円棒の両端部が上方を向くu字状を形成するように曲げたものを下部に、それぞれ水平に配置し、これらの両端部を支持する支柱(上下の円棒より僅かに細い円棒)を左右に垂直に配置することにより四本の円棒を僅かに横長の矩形に組んで構成したフレーム三葉の各一方の支柱を平面的に束ね、その上下二か所に二個の固定具を配してこれら三葉のフレームを一体化してなるもの」であるということができる。

(二)  一方、控訴人物件を示すものであることについて当事者間に争いのない別紙(二)物件目録の記載によれば、控訴人物件の意匠は、「僅かに下方に彎曲した一本の円棒の一端部を角部を小円弧状にして上方に直角に曲げ他端部を同様円弧状に約一一〇度の角度をもつてやや斜め上方に曲げたものを下部に水平に配置し、右直角に曲げた端部にはその上方に垂直に、やや斜めの上方に曲げた端部にはその延長方向に、それぞれ右円棒より僅かに細い円棒を配置し、垂直に配置した円棒の長さに比し斜め上方に向けて配置した円棒の長さを約一・一五倍とし、これらの僅かに細い各円棒の上端に、下部に水平に配置した前記円棒とほぼ同じ太さで両端角部を小円弧状として下方に曲げた円棒の両端を接続させることにより構成された、上辺が傾斜しているやや縦長蝶羽状のフレーム二葉の垂直の各円棒の上下二か所に、内側に円棒二本の取付用部分を有する固定具をその両端部によつて固定し、前記フレームより垂直の円棒を除いた構成のフレーム二葉の右除いた円棒に接続すべき各端部をそれぞれ右固定具の取付用部分に取り付けることにより、右四葉のフレームを一体化してなるもの」ということができる。

(三)  そこで、本件意匠と控訴人物件の意匠とを対比すると、両者は、

「円棒により四角形ないしはその縦一辺を除く三辺を構成するように組まれたフレーム数葉を、その縦一辺の上下二か所に取り付けた固定具により一体化したもの」

である点では共通するが、

(1)  本件意匠の各フレームはいずれも同形で僅かに横長の矩形状であるのに対し、控訴人物件の意匠においては、垂直な円棒のあるフレームとこれを欠くフレームとの二種があり、これらのフレームが構成する形状は上辺が傾斜しているやや縦長の蝶羽状である点

(2)  本件意匠のフレームは三葉であるのに対し、控訴人物件の意匠においてはフレームが四葉である点

(3)  右(1)の相違に伴ない、固定具間の支柱の数が、本件意匠では三本であるのに対し、控訴人物件の意匠においてはこれが二本となつている点

で相違していることが明らかである。

ところで、本件意匠に係る物品も控訴人物件もともにふとん干器であることを考えると、本件意匠(前者)と控訴人物件の意匠(後者)とは、その共通する前記構成により、いずれも比較的軽快で簡素な感じを与える点で共通するということはできるであろうが、前記相違点(1)とくに前者のフレームが僅かに横長の矩形であるのに対し後者のそれがやや縦長の蝶羽状である点は、前記(3)の相違点と相まつて、看者に対し、前者は静的な安定した感を与えるのに対し、後者は動的でやや不安定な感を与えるものであり、また、右の点に関連して、前記相違点(2)において後者のフレームが四葉となつている点も、右の不安定感を少しでも解消する意味を持つ点において前者における三葉とは異なる印象を与えるものということができ、両意匠は、全体として看者に異なつた美感を生じさせる非類似のものとするのが相当である。

ところで、被控訴人らは、本件意匠にかかる物品であるふとん干器が、本件意匠の出願当時他に例をみない新品種の商品で、その基本的形状は極めて独創的であり、本件意匠は、いわゆる原始創作意匠にあたるものであるとして、「四辺形に組まれた数葉のフレームの一辺を束ねてその上下に固定具を配して、これら数葉のフレームを一体化している」点に本件意匠の要部がある旨主張するが、仮に右ふとん干器が被控訴人ら主張のとおり新品種の商品であつたとしても、物品の構成とそれに基づく作用効果が問題とされる特許権又は実用新案権の場合と異なり、意匠権の場合には、その意匠に係る物品についての当該意匠全体から受ける美感が問題とされるもので、新品種の商品であるからといつて、ただちにその物品としての基本的構成部分に意匠としての要部があるとすることはできないのみならず、いずれもその成立に争いのない乙第五号証及び乙第七号証によれば、本件意匠の出願前、衝立又は衣服掛けについてではあるが、同じ家庭用品について、「円棒によつて複数のほぼ方形のフレームを構成し、これらをその支柱に固定具を配することにより一体化した」意匠が公知であつたことが認められ、この事実に照しても、被控訴人らが要部と主張する前記の点ないしは前認定の本件意匠と控訴人物件の意匠とに共通する構成に本件意匠の要部があるとみるのは相当でないから、被控訴人らの右主張は採用できない。

三  以上によれば、控訴人物件の意匠が本件意匠と類似することを前提とする被控訴人らの各請求は、その余の事項について判断するまでもなく、失当としてこれを棄却すべきものである。よつてこれと結論を異にする原判決を取り消し、被控訴人らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用は、民事訴訟法第九六条前段、第八九条により、第一、二審とも被控訴人らの負担として、主文のとおり判決する。

(裁判官 石澤健 楠賢二 岩垂正起)

別紙(一)

本件意匠

説明 右側面図は左側面図と対称にあらわれる。底面図は平面図と同一にあらわれる。

別紙(二)

物件目録

円管をやや蝶羽状の方形に組んでなるフレーム部四葉をもつ左図の折りたたみふとん干器

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 被告は別紙(一)物件目録記載のふとん干器を製造、販売してはならない。

二 被告は原告岩本に対し金七〇六、九一七円、原告会社に対し金一、四一三、八三五円および右各金員に対する昭和五四年七月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三 訴訟費用は被告の負担とする。

四 この判決は仮に執行することができる。

事実

第一申立

一 原告ら

主文第一ないし三項と同旨の判決と仮執行宣言を求める。

二 被告

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二主張

一 請求原因

別紙(二)のとおり

二 被告の答弁

(一) 請求原因第一の一、二、第二の二の1の各事実は認める。

(二) 同第一の三、第二の一、二の2、三の2の各事実は否認する。

(三) 同第二の三の1の事実は知らない。

(四) 第一、第二の各四は争う。

(五) 別紙(三)のとおり

第三証拠<省略>

理由

一 請求原因第一の一、二の各事実は当事者間に争いがなく、右事実と成立に争いのない、甲第二号証によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件登録意匠は、ふとん掛フレーム部と基部から成るところ、

1 ふとん掛フレーム部は、ほゞ四方形のうちのほゞ三辺をなすように円管を、ほゞコの字状に折り曲げたもの三葉から成り、

2 基部は、端部に被嵌合部をもつ三本の支柱とこれらの支柱を近接平列状に固定する上下二個の固定具とから成り、

3 各葉のふとん掛フレーム部は、右基部の各支柱端部の被嵌合部に嵌合することにより、右基部を軸として回転できるように装置されている。

(二) 被告製品の意匠は、ふとん掛フレーム部と基部から成るところ、

1 ふとん掛フレーム部は、ほゞ台形のうちのほゞ三辺をなすように円管を、ほゞコの字状に折り曲げた四葉から成るが、その形状は、上部は底部よりやや長く、底部は水平であるが、上部は基部から遠ざかるにしたがつて、ゆるく上昇し、全体としていわゆる蝶羽形状を成している。

2 基部は、端部に被嵌合部をもつ二本の支柱並びに四個の被嵌合部と、これらを近接平列状に固定する上下二個の固定具とから成るが、右のうち特に下部の固定具は、鉄板をプレス加工して折畳むようにして作出した金具によつて、被嵌合部を覆つた、いわゆるスカート形をなしており、

3 各葉のふとん掛フレーム部は右基部の各被嵌合部に嵌合することにより右基部を軸として回転できるように装置されている。

二 そこで、本件登録意匠(以下「甲」という)と被告製品の意匠(以下「乙」という)とを対比すると、

(一) まず、ふとん掛フレーム部については、甲は、ほゞ四方形、乙は前示のような蝶羽形、甲は三葉、乙は四葉という点で差異があるが、いずれも四辺形の、ほゞ三辺をなす、三葉以上のふとん掛フレームを有する点で共通している。

(二) 次に、基部については、甲は三本の支柱乙は二本の支柱、乙は前示のようなスカート形の固定具、甲はそうではない固定具、という点で差異はあるが、いずれも、近接平列状に固定された支柱、被嵌合部と固定具から成る基部の被嵌合部に、ふとん掛フレーム部端を嵌合して右基部を軸として回転できるように装置されている点で共通している。

三 このように、甲と乙とは、ふとん掛フレーム部の形状と葉数、基部の形状に若干の差異があるけれども、以上の対比にかんがみ、甲も乙もそれぞれ全体として観察した場合、これらを観る者に特に強く印象を与える点は、前示認定のとおりのふとん掛フレーム部および基部の各共通点であるということができるから、これらの要部を共通にする以上、乙は甲に類似するものというのが相当であり、ふとん掛フレーム部における前記の差異は、右要部から容易に着想実施しうる程度の差異であり、また基部における前記の差異も普通一般人の目に触れ、観る者の注意を引き易い部分以外の部分的差異であつて、いずれも甲乙両者の意匠としての差異をもたらすものではないと認めるのが相当である。

四 成立に争いのない乙第五ないし七号証によれば、被告がその主張(別紙(三))の一の(一)、(二)において指摘するような各意匠登録が、本件登録意匠の出願前に、なされていることが認められるが、右はいずれも本件登録意匠とは異なる物品に関するものであることが明らかであるから、原告岩本の有する本件意匠権の権利範囲について何ら影響を与えるものではない。

また、成立に争いのない甲第九ないし一一号証によれば、被告がその主張(別紙(三))の一の(五)、(六)において指摘するように、三葉の移動用物干具についての意匠の登録または原告岩本の類似意匠登録出願に対する拒絶の査定が、特許庁審査官によつて、本件登録意匠の登録後に、なされていることが認められるが、右各事実が認められるからといつて、それだけで直ちに本件登録意匠と被告製品の意匠との間の類否について影響を及ぼすものということはできない。

五 成立に争いのない甲第一号証と原告岩本本人尋問の結果によれば請求原因第二の一、二の2、三の1、2の(1)、(3)の各事実が認められ被告代表者本人の供述右認定を覆すにたらず、他に右認定を覆すにたる証拠はない。

そして、右事実によれば同第二の三の2の(2)の主張は相当であり、また、原告会社は本件訴の原告となるべき適格を有するものと認めるのが相当である。

六 本件訴状送達の日の翌日が昭和五四年七月一八日であることは本件訴訟記録により明らかである。

七 以上の事実によれば、本訴請求は、いずれも理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

別  紙(一)

物件目録

一 円管をほぼ方形に組んでなるふとん掛けフレーム部四葉をもつ左図の折りたたみふとん干し器。(編注、図面は本書三八四頁別紙(二)物件目録のものと同一につき省略)

別  紙(二)

請求原因

第一侵害の差止めについて

一、原告岩本康男(以下原告岩本という)は左記登録意匠(以下本件意匠という)の意匠権者である。

登録番号    意匠登録第三六〇六三九号

登録日     昭和四七年一二月二七日

出願日     昭和四六年一二月一八日

意匠に係る物品 ふとん干器

意匠の構成   甲第二号証記載のとおり

類似意匠    類似第一号 ふとん干器

昭和四九年四月三日登録

二、被告は別紙(一)物件目録記載のふとん干器(以下被告物件という)を製造して販売している。

三、本件意匠と被告物件の意匠とを比較すると

(一) 本件意匠の構成は

1 円管をほゞ方形に組んで成るふとん掛フレーム部三葉と、

2 端部に被嵌合部をもつ三本の支柱とこれらの支柱を整列状に固定する固定具とから成る基部一体とから成り、

3 各葉のふとん掛フレーム部は右基部の各支柱端部の被嵌合部に嵌合することにより右基部を軸として回転しうるように装着されて

成る

のに対し、

(二) 被告物件の意匠の構成は

1′ 円管をほゞ台形に組んで成るふとん掛フレーム部四葉と

2′ 端部に被嵌合部をもつ二本の支柱並びに四個の被嵌合部と、これらを整列状に固定する固定具とから成る基部一体とから成り、

3′ 各葉のふとん掛フレーム部は前記基部の各被嵌合部に嵌合することにより右基部を軸として回転しうるように装着されて

成る。

(三) そこで、右各要素を比較するに

(二)の1′2′3′は(一)の123に各々順次対応するところ、先ずふとん掛フレーム部について、

1 右フレームは本件意匠がほゞ方形に組まれているのに対して被告物件のそれが台形に組まれている点で

2 本件意匠の基部の支柱が三本であるのに対して被告物件のそれが二本である点で、

3 本件意匠の基部においてはいずれも支柱の端部が被嵌合部となつているのに対し、被告物件のそれは被嵌合のうち四個は支柱によつて支持されていない点で、

各々相違するが、

両者は、

1 ふとん掛フレーム部が四辺形の三辺として組まれ

2 右フレーム部を三葉以上もち

3 支柱、固定具、被嵌合部より成る基部一体の被嵌合部に、ふとん掛フレームを嵌合して右基部を軸として回転可能のように装置されている、

点で一致している。

(四) ところで、本件意匠に係る物品であるところのふとん干器の機能は、

1 ふとんを水平に掛けてその重量に耐えうる構造をもち

2 一体の基部を軸とした折り畳みが可能で

3 展開をすれば起立状態で置くことのできる

ふとん干器である点にあるところ、これらの機能をもつためには、ふとん掛フレーム部が少くとも四辺形の三辺として組まれ、右フレーム部を最低三葉有し、また各葉のフレーム部が回転可能であるように一体の基部の被嵌合部に嵌合して装着され、基部はフレームの一辺を構成すべく少くとも一本の支柱と、被嵌合部と、これらを固定するための固定具とから成る意匠であることがどうしても必要である。そこで、前記の本件意匠と被告物件の意匠の一致点を右のことに照らし合わせてみれば、いずれもこれらが右の必要構成要素に合致していることが分る。即ち、両者は本件意匠に係る物品の機能から発露するところの、意匠の基本的な形状、要素において一致している。

ところで、本件意匠に係る物品であるところのふとん干器は本件意匠の出願当時他に例をみない新品種且つ斬新な形状の商品であつて、従つてまた本件意匠自体、いわゆる原始創作意匠であり、その権利の幅は相当に広く解釈されるべきであるから、その基本的な構成要素をもつて意匠の要素とみるべきである。

(五) 然るに、前述のとおり、本件意匠と被告物件の意匠とはこれら基本的構成要素において一致しており、一方、両者の相違点はいずれも右基本的構成要素から外れた点での微差というにすぎないものであるから、被告物件の意匠は本件意匠に類似する。

四、因つて、被告が被告物件を製造販売する行為は原告岩本の前記意匠権を侵害するものであるから、原告岩本は被告に対し意匠法第三七条第一項にもとづき、請求の趣旨記載の判決をもとめる。

第二損害賠償の請求について

一、被告の行為

被告は、昭和五二年一一月二六日から、同五四年六月二〇日頃に至るまで、前述したとおり本件意匠権の侵害品である別紙目録記載のふとん干器四、五五〇台を、これが本件意匠権を侵害するものであることを知りながら、または過失によりこれを知らないで、製造して販売し、その売上げ額は合計一四、一三八、三五〇円に達している。

二、原告らの権利

1 原告岩本は前述のとおり本件登録意匠の意匠権者である。

2 原告タイヨー産業株式会社(以下原告会社という)は昭和五一年八月ころ、原告岩本から前記意匠権について次節で述べるように独占的通常実施権の許諾を得て、同年一一月から右権利の実施品であるふとん干器を製造し、その販売に従事してきた。

三、損害の発生

1 原告岩本は被告の前記行為により、得べきであつた本件意匠権の実施料を得ることができず、従つて実施料相当額の損害を豪つた。そして、その実施料は被告物件の販売価格の五パーセントをもつて相当とするから、被告物件の総売上額の五パーセントに該る七〇六、九一七円の損害を豪つたことになる。

2(1) ところで、原告会社と原告岩本の関係についてみるに、原告会社は原告岩本によつて昭和五〇年八月二九日に設立され、同人を代表取締役とし、その他の役員も原告岩本の実父と、親戚一名の者で構成され、また従業員もわずか九名という極めて小規模の企業であつて、その実質は原告岩本の個人経営に等しい。

また、原告会社の営業内容は本件意匠権の実施品たるふとん干器のほか、ハンガーラツク等の家庭用金物製品の製造販売であるが、その製品は工業所有権化されているか否かはともかくとしていずれも原告岩本の着想発案したものを製品化したものである。ただ、原告岩本は自らの発明、考案、創作等について工業所有権の出願をする場合、原告会社が零細であるところから、会社名で出願するよりも個人出願にした方が権利として安定し、且つ、原告会社が利益を挙げるようになつたときはそこから報酬のほかに実施料を得ることができると考え、全部原告岩本名で出願し、これを原告会社に実施させているものである。

右のような訳で、原告岩本が、同人の所有する工業所有権の実施許諾を原告会社以外の者に対して為すことはあり得ず、また、事実そのようなことはなかつた。

以上の事実を総合すれば明らかのように、原告会社は原告岩本から遅くとも昭和五一年一一月ころまでに黙示で独占的通常実施権の許諾を得ていたものであつて、しかも、その内容は専ら原告会社にのみ実施させ、権利者たる原告岩本自身は一切実施をしないことは勿論、第三者に対しても実施権を許諾することがあり得ないという点で、むしろ専用実施権たる実質をもつものである。

(2) 従つて、原告会社が被告の独占的通常実施権侵害によつて豪つた損害額については、意匠法第三九条第一項の適用乃至類推適用があるものと解すべきである。

(3) ところで被告が被告物件を売り上げた総金額は金一四、一三八、三五〇円に達し、これによつて得た利益は少くとも右総売上額の一五パーセントを下らないから、結局被告が被告物件の製造販売によつて得た利益は金二、一二〇、七五二円である。

よつて、原告会社は、右利益から、原告会社が原告岩本に対して支払うべき実施料を差し引いた金一、四一三、八三五円の損害を豪つたものである。

四、よつて、原告岩本は被告に対し、民法第七〇九条、意匠法第三九条第二項により、原告会社は被告に対し、民法第七〇九条、意匠法第三九条第一項により請求の趣旨第二項記載の判決を求める。

別  紙(三)

被告の主張

一、侵害の差止めについて

被告の製造・販売にかかる四葉のふとん干し(以下単に被告物件という)は以下掲記の如き事由により原告岩本の主張する本意匠権の範囲に含まれず、これを侵害するものではない。従つて、被告物件は原告岩本の本意匠権をもつても差止めは許容され得ぬものである。

(一) 被告物件は四葉及び五葉で「ドン・ホセ」なる商品名で製販されているものである。

ところで、原告岩本が本意匠権をもつ三葉と被告物件である四葉に関して原告らの説く三つの相違点は指適のとおりである。問題は原告らが両者を「基本的形状・構成要素において一致している」との主張・評価で、右は独断で著しく我田引水論法の類いの非難を免れないものである。

すなわち、二葉ホーム(乙第七号証)の意匠登録に対し原告岩本の三葉ホーム(甲第二号証)の登録意匠が容認されている如く、右原告岩本の本意匠登録に対して、被告物件たる四葉のホームは別の意匠考案に成るもので、さらに被告製販の五葉ホームも別異の意匠としての保護法益を有する。この種の考案に成る意匠の本質的要素は葉数にあり、意匠の主要部を構成する。

而して、意匠の主要部を構成する葉数は間接隔離観察によつて五以下では相互に誤認・混同を生じる如き類似性もない。

(二) ところで、原告らが被告物件との符合を示為する原告岩本の本意匠は出願する以前から既に公知であつた。例えば、意匠にかかる物品名は異なるが、(株)トーカイスクリーンが意匠権を有する商品(乙第五号証)のホームは機能的にはふとん干器として、原告岩本の本意匠と同一の用法にかなう。また、伊藤雅美の保有する洗濯物干器の意匠登録(乙第六号証)品は付属品をはずして起立させれば、三葉のふとん干器そのものである。この理は、物品名は異なるが乙第七号証の意匠登録品もそのまま二葉のふとん干器となる。

以上の次第で、原告岩本の本意匠は原始創作に成る意匠とはいい難い。

(三) 原告らは、ふとん干器の両者の構成機能の類似性を示為しているが、この点は特許法又は実用新案法で保護されているところとは異なるので特に論ずる価値はない。

(四) 本件は意匠法上の類似性の範囲をどうとらえるかにかかるが、原告らも自認する如き前述の三つの相違点はどれひとつをとつても視覚的審美感に明僚な相違点が顕著なので非類似である。

(五) 原告岩本の本意匠の類似の範囲は類似第一号程度が限度である。ちなみに、宮田裕之の保有する移動用物干具(意匠登録第三八〇七六八号・甲第九号証)は三葉であるところ、右は原告岩本の本意匠出願以後に出願して登録が認容されている。

(六) 原告岩本は類似意匠として被告物件に似た四葉の出願(意願昭五〇―四八二八八号)をなしたところ拒絶査定された。類似意匠の登録は本意匠の範囲、すなわち、本意匠の創作性がどの範囲までを包含するものであるかを客観的に明らかにするために行うものであり、権利は合体するので、例えば被告が前記類似意匠出願と同一のふとん干器を完施したとしても本意匠を侵害するものではないことを意味している。

(七) 原告岩本は本訴において、被告に「円管をほぼ方形に組んでなるふとん掛けフレーム部四葉をもつ折りたたみ式ふとん干し器」(別紙(一)物件目録)の製販差止めを求めているが、これは原告岩本が前記の如く拒絶査定された意願昭五〇―四八二八八号そのもので、本意匠の権利が及ばないことを如実に露呈している。

二、損害賠償の請求について

(一) 被告は原告主張の如き侵害物件の製造販売に及んだ事実はない。

(二) 原告会社が独占的通常実施権を保有するとの主張は根拠がなく従つて、その適格性を前提とする本訴請求は失当として排斥を免れない。

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